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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)1332号 判決 1998年7月31日

控訴人(被告) 株式会社大信

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人支配人 B

被控訴人(原告) 破産者有限会社a破産管財人 X

右訴訟代理人弁護士 奥田聡子

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人

1  原判決中、控訴人関係部分を取り消す。

2  被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事実の概要

一  本件は、控訴人が、平成九年六月二日に倒産し、同月一八日に破産宣告を受けた破産会社との間で、平成六年三月二九日に、三〇〇万円を限度として破産会社が取引先に対して有する取引上の債権を譲り受ける旨の契約(以下「本件債権譲渡契約」という。)を締結したところ、破産会社の破産管財人である被控訴人が本件債権譲渡契約は、破産会社の真意に基づかない契約、あるいは、予約にすぎないものであるうえ、譲渡の対象の特定もされていないから、いずれにしても無効である、控訴人は、破産会社の支払停止後にその事実を知り、かつ、本件債権譲渡契約の締結後一五日を経過した後に右譲渡の通知をしているから、破産法七四条一項により対抗要件を否認する、右譲渡(集合債権譲渡)は控訴人と破産会社との間に発生する債務の担保のためになされ、担保権設定から一五日を経過した後にその通知がなされているところ、右通知時に、控訴人は破産会社の支払停止の事実を知っていたから、破産法七四条一項により担保権設定についての対抗要件を否認する、仮に何らかの特定行為があったとしても、控訴人は、破産会社の支払停止の事実を知ってしたものであるから、破産法七二条二号により右特定行為を否認する、本件債権譲渡は破産債権者を害する目的でなされているから、破産法七二条一号により本件債権譲渡を否認するなどと主張して、破産会社がその取引先である株式会社ディー・エヌ・ピー・メディアクリエイト関西(以下「訴外会社」という。)及びクロスクリエイトことC(以下「C」という。)との間に締結した各請負契約に基づき有する債権が控訴人に属することの確認と訴外会社に対する請負代金の支払を求めた事案であり、原審が、被控訴人の控訴人及び訴外会社に対する請求を全部認容したところ、控訴人が自己の関係部分の取り消しを求めて控訴したものである。

二  当事者の主張は、以下に付加するほか、原判決事実摘示のとおり(同四頁八行目から同一七頁八行目まで。但し、控訴人と被控訴人に関する部分のみ)であるから、これを引用する(なお、「被告株式会社ディー・エヌ・ピー・メディアクリエイト関西」及び「被告関西」をいずれも「訴外会社」と読み替え、同一一頁七行目の「破産債権者」を「破産会社」と改める。)。

(控訴人の主張)

本件はいわゆる集合債権についての停止条件付債権譲渡担保契約であって右契約締結時点では、債権譲渡の効力は生じておらず、その取立権も譲渡人である破産会社にあったものであり、第三者債務者に対しては、通知又は承諾により、それ以外の第三者に対しては、右通知又は承諾についての確定日付を付することにより対抗要件が具備されるものである。原判決判示のような、契約締結時点で効力が生じ、包括的な通知によって対抗要件を具備するとの考え方は、当事者の意思にも、また、近時の「債権譲渡の対抗要件に関する民法等の特例等に関する法律」において第三者に対する対抗要件として登記制度が採用されたという立法経緯から窺われる商取引の実情にも反する考え方である。したがって、破産法七四条の一五日間の期間の起算日を本件債権譲渡の契約締結時に認める原判決は、不当であり、最高裁判所昭和四八年四月六日第二小法廷判決・民集二七巻三号四八三頁の趣旨にも反するから取り消されるべきである。

(被控訴人の反論)

本件債権譲渡は停止条件付集合債権譲渡であって、非典型担保の一種として契約設定時に権利移転の効果が生じるというべきであって、控訴人主張の判例は、債権譲渡の対抗要件の否認についての事案であって、停止条件付集合債権譲渡についてのものではないから、本件と控訴人主張の判例の事案とは否認の対象を異にしており、控訴人の主張は理由がない。仮に、包括的な通知に対抗力が認められず、対抗要件を備える方法がないとすれば、右担保権はもともと対抗要件を具備する手段のない不安定な担保権にすぎなかったものであって、そのことにより、対抗要件否認の猶予期間を長く解すべきとの主張は本末転倒の議論である。近時の「債権譲渡の対抗要件に関する民法等の特例等に関する法律」は、第三者に対する対抗要件の簡素化を図ったものにほかならず、対抗要件を具備しないことを正当化するものではない。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する請求を認容すべきであると判断する。

その理由は、以下のとおり付加するほか、原判決理由説示(同一八頁一行目から二二頁三行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

原判決一九頁五行目の次に「控訴人は、当審において、本件はいわゆる集合債権についての停止条件付債権譲渡担保契約であって右契約締結時点では、債権譲渡の効力は生じていないから、対抗要件を否認しうる場合に当らないと主張するが、本件債権譲渡は、前記認定のとおり、債権担保の目的で締結されたものであり、契約締結時において、少なくとも債権の発生原因、限度額、第三債務者が具体的に特定されており、集合債権として範囲の特定もなされているのであるから、条件未成就の間は期待権であるにすぎない単なる停止条件付債権譲渡ではなく、契約締結時点で担保権は発生しているが、条件未成就の間は担保権の実行が制限されている集合債権譲渡の担保権設定契約と認めるのが相当であるから、控訴人の右主張は採用できない。」を、同二〇頁三行目の「特定されている」の前に「前記認定・説示のとおり」を、同二一頁四行目の「契約」の次に「締結」を、同二二頁三行目の次に改行のうえ、「控訴人は、右判断が、破産法七四条一項の対抗要件の否認につき判示した最高裁判所昭和四八年四月六日第二小法廷判決・民集二七巻三号四八三頁の趣旨に反すると主張するが、右は、商品売掛債権の譲渡契約であって、契約締結時に債権譲渡の対象となる債権が現存ないし特定もしていなかった事案に関するものであって、本件とは事案を異にするから、控訴人の右主張はにわかに採用しがたい。」を、それぞれ加える。

第四結論

よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笠井昇 裁判官 横田勝年 岡原剛)

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